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【第107回】コキ90形が拓く日本の鉄道コンテナ輸送の未来

コキ90形、出場!

先日、鉄道ファンのみならず、物流業界からも注目を集めたニュースがありました。
兵庫県の川崎車両で新造された、新型コンテナ車「コキ90形」が東京貨物ターミナル駅に向けて甲種輸送されたのです。この車両は、2024年度のJR貨物事業計画にも盛り込まれていた新型貨車の試作車であり、東京新聞の取材によると、31フィート背髙コンテナに対応するため開発されたとのことです。

ちなみに、JR貨物が所有する31フィートコンテナ、49A形コンテナの高さは2605mmである一方、「トヨタ・ロングパス・エクスプレス」で使用される私有コンテナU55A形コンテナは高さ2800mmと約200mmの差があります。31フィートの背髙コンテナはこういった、私有コンテナにみられるより高さのあるコンテナを指します。

多くの在来線ではトンネルや陸橋といった構造物の建築限界が障害となり、各種背高コンテナの輸送ができない(できなかった)路線があることは、以前のコラムで述べました。この問題を解決するため、床面高さを極限まで下げる車両の開発が進められてきたのです。
今回登場したコキ90形の床面高さは900mm。これは、JR貨物で広く用いられているコキ100系の1000mmから、わずか100mmの低下に過ぎません。しかし、この100mmの差がもたらす意味は計り知れません。

19㎥級コンテナより100mm背の高い20㎥級の12フィートコンテナが登場した際、コンテナに大きく「コキ50000積載禁止」と書かれ、床面高さ1100mmのコキ50000形では走行できなかった路線があったことをご存じの方も多いでしょう。
その後コキ50000形は淘汰、20㎥級コンテナが汎用コンテナとして全ての路線で使用可能となりました。

低床コンテナの可能性と現状

コキ90形以前にも、低床コンテナ車の開発は試みられてきました。2016年には、床面高さが740mmという、超低床タイプのコキ73形も開発されました。これは建築限界を突破するソリューションとして期待されましたが、車両構造が複雑化することによるメンテナンスコストの増大などが課題となり、残念ながら2022年以降は増産されていません。

コキ90形は、このコキ73形の課題を乗り越えるべく、現実的な設計とメンテナンス性を両立させた車両として誕生したのでしょう。コキ90形が本格的な運用に入れば、これまで鉄道輸送が難しかった大型コンテナもスムーズに運べるようになり、モーダルシフトがさらに加速する可能性があります。これにより、トラックドライバーの労働負担軽減や環境負荷の低減にも繋がることが期待されます。
コキ73形では、海上輸送で主流となっている40フィートのハイキューブ(背高)コンテナの積載も見据えて開発されました。今回のコキ90形は、まず既存の31フィート背高コンテナの輸送を通じてデータを収集し、満を持して40フィートハイキューブコンテナも運べる量産型貨車が開発される、という未来への第一歩なのかもしれません。日本の鉄道貨物輸送に大きな変革をもたらすことを期待せずにはいられません。